ここでは、ある上場企業が、「濃淡管理」(=区分管理)手法を用いて、社内の与信管理体制を構築するまでを事例に沿って説明する。
具体的な流れに入る前に、まず『濃淡管理』について以下に整理しておこう。
(「濃淡管理」の特徴)
- 統一基準に基づく客観的な評価指標(格付)をもとに、取引先を区分する。
- 区分されたグループ毎に管理方法・決裁条件に濃淡をつける。
→結果、労度(手間)とコストを最適化する。 - グループ毎のリスク量を算定することにより、企業全体として貸倒リスクがどのようなものであるかを客観的に把握し、方針を反映しやすくする。
(「濃淡管理」が向いている企業)
- 管理先が法人であり、多数である。
- 取引形態が継続取引である。
- 取引額が大口取引先から小口取引先まで多岐に渡る
さて本題に入ろう。今回の与信管理体制構築のフローを整理すると以下のようになる。ここからは以下のフローに沿って説明を行っていく。

1.社内データの整備
「取引先管理コード」と「名寄せ」
同一法人であっても、取引先コードが別になっているケースがある。
(例)○×(株)、
○×(株)△△支店、
○×(株)☆☆事業部門 等
まずは、共通のコードを設定し、統一する。
当たり前のことではあるが、与信管理体制を構築する上で、現時点における取引先との債権ポジションを、まずは正確に把握する必要がある。
上記A社では、社内の取引先コードが1社に1コードとなっておらず、即座に1社あたりの債権残を把握することができなかった。
そこで、大手興信所の企業コードを新たに「取引先管理コード」とし、1社あたりの債権残が把握できるように、SNSCが保有する175万社のTSR企業コードを利用して「名寄せ」を実施した。
2.ポートフォリオに基づく管理対象先の選定
データ整備ができたところで、信用度の評価指標(格付)を基準としたポートフォリオを作成する。
ちなみに、この評価指標は、取引先への取り組み方針を決定するものであるから、客観的かつ、ある程度長期間の取引を考慮したものが望ましい。恣意性が多分にあり、期中にその指標が乱高下するものは適さない。
今回A社は上記条件を満たすSNSC格付によるポートフォリオ分析を実施した。その結果は以下の通り。

3.管理手法の選定
上記結果を見ると取引先の半数以上が1百万円以下の小口先であり、50百万円以上の取引先は、7社であることが判明した。
そこでA社は取引先を以下3つのグループに大別した。
- 大口先 :債権残高50百万以上の先(7社)。
- 通常先 :債権残高1百万円超〜50百万円未満の先(350社)。
- 小口先:1百万円以下の先(573社)。
グループ区分が出来たところで、そのグループ毎に管理手法を決定する必要がある。
これは、人員配置、取引先の信用度合い、与信管理に割り当てる予算や業務量など各企業の実態を考慮して設定する必要がある。
設計した結果は以下のとおり。
区分ごとの決裁権限と取引諸条件
|
大口先(7社) |
通常先(350社) |
小口先(573社) |
決裁者 |
取締役会にて限度額を決定し、限度額以内であれば現場で決裁 |
格付及び取引限度額毎に設定(下記参照) |
営業部にて決裁(下記参照) |
取引限度額 |
取締役会にて決定 |
適正与信金額をもとに審査部が営業担当と相談し個社毎の限度額を決定 |
1百万円以下 |
取引条件 |
個別に設定 |
格付毎に設定 |
一律(末締め翌月末現金) |
※条件に合致しない場合、通常先管理とする
通常先:小口先における決済権限と確認情報基準

4.社内規程
A社は上場企業であることから、内部統制も意識し、SNSCが提供する「サンプル規程集」を活用することで、新管理体制にフィットした与信管理規程と運用マニュアルを作成した。
その際、形骸化していた従前の与信管理規程について、SNSCによる与信管理規程の診断サービスを利用し、与信管理体制を構築。新管理体制をより実効性のあるものとした。
5.運用開始
ここまで与信管理体制の構築の流れを追ってきたが、これで終了ということにはならない。この後、実際に商売を行いながら定期的に規程と実態のギャップの調整を行っていく必要がある。
以下、今後の調整点のポイントを上げておく。
- 営業担当の労度の増減が許容範囲か?
- 決裁のスピードは、商談を阻害していないか?
- コストが想定した範囲内か?
また、運用開始後、必要となってくるのが社内への教育・啓蒙である。「与信管理とはどういうものか」「なぜ必要なのか」を社員が理解してこそ、この管理体制は更に効果を発揮する(事例(2)へ)。
加えて、B社では、上記管理体制の構築により、審査部や管理部の労度が効率化した分、同部の役割も変化し、個別案件の可否の判断からリスクの軽減やリスクヘッジ手法の提案、債権回収のサポートまでを行うことになった。
ポイントまとめ
- 現状把握の準備は「名寄せ」と「取引先コードの割り振り」から始まる。
- ポートフォリオ分析で自社の全体像を認識する。
- 格付を用いて決裁権限を明確化する。
- 新しい規程と営業現場との調整を行い、ギャップを埋める。



A 株式会社
A社は組織としての与信管理体制が構築できておらず、取り組みに際しては、営業部からの依頼に基づき、1社ごと個別にベテランの審査担当が審査していた。上場企業として、内部統制の問題もあり、会社全体のリスク方針が反映でき、属人的にならない与信管理体制の構築が急務となっていた。