ここでは、一通りの与信管理体制の構築がなされていたB社が、現状の不具合を見直し、規程の修正と社員教育により、社内の与信管理マインドを改善した事例を紹介する。
上記B社のように、与信管理の社内規程が一応は存在しているものの、形骸化してしまっているケースは意外と多い。以下が代表的な流れだろう。
- 営業現場で「売り方」「売るもの」「売る先」が変化することにより、過去に作成した管理規程とミスマッチを起こす。
- 規程にならっていると、販売機会を逸したり、取引自体が困難になるため、営業現場が、取り敢えず、イレギュラーな対応をとり、それが社内で是認される。
- 結果、イレギュラー対応が日常化し、規程自体が形骸化する。
バブル崩壊から暫く時が経過するとともに、景気回復も手伝い、「ここ数年は取引先の倒産も殆ど起こっていないから」といった意識もこれを後押ししてしまう。
ここで一番怖いのは、
「規程を守らなくてもいい」=「与信管理をしなくてもいい」
というモラルハザードである。今回、事例に取り上げたB社も同様であった。B社はこのような状況を改善するために以下のような改善を行った。

1.与信管理規程内容と実態の確認
B社の与信管理規程は、現在から約15年前に作られたものであり、取引先数・同社の規模・景気環境のどれをとっても現在とは全く異なっている。
そこでB社は、当社に与信管理規程の診断を依頼し、過去の規程にある問題点の洗い出しを行った。また同時並行的に営業現場からのヒアリングを行い、現場取引の実態を把握することに努めた。
以下が問題点と営業現場からのヒアリングした内容の一例である。
- (規程記載) 新規取引先は必ず前金または代金引換で商売を行う。
(現場の声) 現状不可能。交渉した時点で取引ができない。 - (規程記載) 売買契約書の締結、納品書の受領は厳守する。
(現場の声) 手間が掛かるのでやっていない。 - (規程記載) 取引先は必ず週に1度は往訪し、状態を確認する。
(現場の声) 労度(手間)が掛かりすぎる。人員的に不可能。
2.規程の修正と運用マニュアルの作成
同社は、形骸化している規程を改善するため、上記1〜3のような「現場の声」と「規程」との乖離を埋めるべく3つのパターンに分類し、以下のような改善を行った。
- 規程を遵守すべき項目(例:上記2)
→(対応)営業側に改善を求める。 - 規程を修正すべき項目(例:上記1)
→(対応)規程の修正を行う。 - 規程上は残すが、詳細は規程決定しない項目(例:上記3)
→(対応)運用マニュアルを作成し、そこで決定。
運用マニュアルは、頻繁に管理規程を改定することなく、現場毎、または運用年度毎に内容を、柔軟に対応させるために作成した。例えば上記3については、規程条文には、以下のように記載されることとなった。
(第10条)取引先の往訪
担当者は、取引先の状況の確認のため、できる限り往訪を行い、風評等も含め情報の収集を心がけること。なお、対象先、頻度については運用マニュアルに順ずる。
3.与信管理研修(社員教育の実施)
B社では、規程の修正を行う一方、営業現場対しても、改善を求めることとなった。今後、新設された規程が再び形骸化してしまわぬように、社員に遵守してもらうために、与信管理の重要性を説明し、「なぜ、与信管理をする必要があるのか?」を十分に理解してもらう必要がある。
B社では、役職や部署別に与信管理研修を行うこととなった。以下は、当社がB社の依頼に基づき行った研修のプログラムである。
(詳細内容についてはコチラ→)
- 管理職向け研修
- 営業現場向け研修
- 与信管理の基本(与信管理とは何か?)
- 取引先信用調査の方法
- 倒産兆候への対応
- 緊急保全・債権回収の方法
- (貿易取引実務上の留意点)
- 管理部門向け
- 財務分析の方法I・II
- 債権(契約)管理の方法
- 担保・保証の活用法
B社では、管理職と営業現場と管理部門が一体となり、与信管理体制の立て直しが行われた。将来の上場も視野に入る同社にあっては、景気環境の比較的良好な時期に、立ち遅れていた管理体制の整備が行えたことで、今後の規模の拡大、人員の増加を、ひとまずは安心して進めていけると思われる。
ポイントまとめ
- 与信管理についての社内規程は、与信管理規程と運用マニュアルに分け、運用マニュアルは実態に合わせてフレキシブルに変更する。
- 与信管理の重要性については、外部研修などを行い、全社で共有する。また、研修メニューは、概念論にとどまらず、セクション毎に実務にマッチした内容を組む。A社は、上場企業であることから、内部統制も意識し、新管理体制にフィットした、SNSCが提供する「サンプル規程集」を活用し、与信管理規程と運用マニュアルを作成した。



B 株式会社
B社は地元では名の知れた優良企業である。業暦も長く、攻めの商売で年々売上を拡大してきた。しかし、ここ数年、景気が上向く中で、バブル期以来の貸倒が頻発し、あろうことか取り込み詐欺にもあってしまった。同社では一通りの取引先管理体制は構築されているが、与信管理規程は、バブル崩壊後に急場凌ぎで作ったものであり、現状の同社の商売とは、全くといっていいほど合っていない。また営業現場では与信管理規程を遵守せねばならないという意識も低いといった状態である。