ここでは、与信管理システムを構築するにあたり、ASPを使って社内のインフラを整備した事例を紹介する。
まず本題に入る前に、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)の説明とメリットを纏めておく。
ASPとは、インターネット等のネットワーク環境を通じ、自社でホストを所有せずに、アプリケーションソフトウェアや付随するサービスを利用することができるアウトソーシング手法の一形態である。加えて、ASP導入の代表的なメリットは以下3つ。
- 導入が容易
インターネット環境とWebブラウザさえあれば、必要な時に、どのような場所からでも利用可能。また、個別のパソコンに新たなソフトウェアを導入する必要がなく、ユーザーは常に最新のサービスを受けることができる。 - セキュリティが強固
サーバの管理はセキュリティの強固なインターネット・データ・センターで管理されており、データの機密面でも運用面の障害面でも最大限の安全性が保障される。 - 導入費用が安価
ソフトウェアやアプリケーションを自社で購入・開発するのと比較して、低額の料金でサービスを享受できる。
上記C社は、取引先管理システムの導入にあたって、当社の提供するASPサービス『取引先与信管理サービス』を採用した。同サービスのイメージ図は以下の通り。

簡単にサービス概要を説明する。赤い破線に囲まれた4つ(与信判断、企業情報、財務諸表、調書)は、当社独自の情報、もしくは当社経由で入手可能な興信所より入手できる情報(自社入力の財務諸表は除く)である。上記の各情報は、取引先ファイルというデータベースに格納することが可能で、一度取引先ファイルに格納した情報については、C社のIDの取得者であれば、何度でも閲覧及び再取得等が可能となる。
青い破線で囲まれたものは、C社にて登録した情報である。担当者、決裁条件、取引先の往訪記録などが書き込み可能。また、契約書類、見積等もPDF、EXCEL等のファイルとして格納することできる。
黄色い破線内の与信フォローアップは、取引先の信用変動のモニタリングサービス。C社がファイルを作成した取引先の中で、特に気になる先について登録しておくことで、変動があった場合、E-mailにて通知される。
1.営業スタイルとの親和性
利用者IDと権限
当社ASPでは、利用者IDは、無料で、ほぼ無制限に(1社あたり20万IDまで)発行が可能。
また、IDに対し10パターンの権限設定が可能(Ex:閲覧のみID)。
加えて、セキュリティを鑑み、情報入手者のIDも即座に確認することが可能。
C社は、営業担当を約50名を抱えており、その大半が出社後すぐに外回りに出かけ、夕方遅くに戻ってくるSOHOにも近い営業スタイルであった。出先からでも、新規開拓先や既存取引先の情報が即座に入手できるように、営業担当全員に同サービスの利用者IDに付与した。
これにより、新規アプローチを開始する際には、
- 初めに企業情報を取得し、ファイルに登録する。
- 契約が見込めるようになった段階で格付の取得する。
といったフローを作成し、一方、既存取引先には、
- 契約書、見積書をPDF化して格納(原本は耐火金庫に)し随時閲覧可能な状態とする。
- 取引先ファイルに部署、担当者、先方窓口、決裁条件等の基本情報を入力し共有。
- 往訪時には往訪記録を入力。
- 気になる先については与信フォローアップを登録
- 決算書が入手できた先についてはファイルに入力する(財務データ入力)。
といった管理を行った。
このように、リアルタイムで情報が取得できることにより、営業の効率化・スピードアップが可能となった。加えて、他の営業担当と情報を共有化することにより、興信所情報の重複取得がなくなるといった副次的な効果もあった。
2.管理部門における取引先管理
取引先ファイルに登録してある企業については、EXCEL・CSVファイルにて一括でダウンロードすることもできる。
C社は、毎月、ダウンロードしたデータをもとに自社の債権残高データと取引先ファイルに登録した限度額の突き合せを行い、限度額を超過した先や枠残の少ない取引先を部署毎にまとめ、営業部に対し情報発信していくとともに、全社的な取引先の債権額や、新規先へのアプローチ状況を記録していった。
また、管理が不要になった先については、定期的に取引先ファイルの削除を行い、常時必要な先のデータだけをASP上に残すことで、スリープ先の確認とコストダウンに努めた。
3.導入コストについて
利用サービス |
件数 |
企業情報 |
180 |
与信判断 |
150 |
取引先ファイル※ |
― |
与信フォローアップ※ |
― |
信用調書 |
4 |
※ファイル等については月単位の件数精算であり、本件、登録削除を繰り返しているため内訳は開示せず。
最後に、コストについて検証してみたい。当社サービスの料金プランは、ボリュームディスカウントを採用しており、利用件数が多い場合には、より上位のプランで入会することでサービスの単価が安くなる。携帯電話の加入プランをイメージしていただけるとわかりやすいかもしれない。
年間トータルコスト= 基本料金 + 個別サービス単価×件数
C社の1年間に取得した情報件数及び作成したファイルは右の通り。
冒頭のメリットにも挙げたが、自社でシステム構築した場合とは、以下の点も考慮して採算比較を行うべきである。
- 自社で同様のシステムを構築した場合の直接コスト
- そのシステムのセキュリティに掛かる直接のコストと運用コスト(人件費)
- 各拠点に専用線等を設置する手間と今後の拡張性
- 各端末のセットアップ等の手間
また、なかなか論じられることは少ないが『ASPの利用料金については利用年度に税務・会計上、全額損金処理が可能』といった点も、自社でシステムをP/L上に固定資産として保有し、償却する場合と比較した場合メリットとなる企業もあるだろう。
ポイントまとめ
- ASPのメリットは(1)導入しやすさ、(2)セキュリティ、(3)コストである。
- 営業部門間、営業部門と管理部門の情報共有がシステム構築の鍵になる。
- 内部統制など社内の情報管理の面から、ASP利用者のサービス利用権限の設定は必須。



C 株式会社
C社は設立して、未だ10年に満たない新興企業。売上も堅調に伸び、取引先の新規開拓にも余念がなく2008年度中の上場を目指している。