役に立つ与信管理実務レポート
FILE NO.004 新しい取引信用保険の活用法 売上アップにつながる取引信用保険の掛け方

会社概要

E 株式会社
年商:約3,000百万円
業種:コンクリート二次製品の製造販売
取引先数:1500社超
販売先業種:土木建築業
前年度年間貸倒金額:約6百万円

課題・問題点

近年売上が鈍化しており、積極的な営業展開を図りたいが、業界不況による貸倒がネックとなりなかなか思うようにいかない。
取引先の審査が可能な人材も社内にはおらず、債権買取(ファクタリング)や興信所の評点・調書などを相当額(併せて年間24百万円)利用して取り組んでいるが、ファクタリングをしていない先に貸倒が発生するなど、コストばかりが掛かり有効な与信管理が行われていない。

関連用語説明

『ファクタリング』

一般的には、取引先から得た売掛金や受取手形といった債権を、ファクタリング会社に売却等をすることで早期に現金化する資金調達手法を指すが、この場合は、流動化による資金調達手法というよりも、ファクタリング会社に手数料を払い、企業が債権の回収業務を行うことなく、破綻リスク無く資金を回収する、債権管理の手法を指す。一部、ファクタリング会社では、債権買取ではなく保証業務を行うところもある。

『貸倒リスク』

取引先から債権回収が不能になるリスク。信用リスクとも言う。

『リスクヘッジ』

リスクの程度を定性的かつ定量的に予測して、当該リスクを回避できる体制を構築すること。

『興信所』

企業信用調査を手掛ける機関のこと。商取引に際し、当該商取引の可否を決するに必要な相手方の経営状況・対外信用などの実態調査を行っている。

 ここでは、ある企業の導入事例に沿って取引信用保険の有効な付保方法について説明する。なお、一般的な取引信用保険の仕組みについては当社サービスの『取引信用保険』を参照いただきたい。

図1

 まず、取引信用保険導入検討の進め方フローに示すと右の図1のようになる。ここからは図1のフローに沿って解説をして行く。

1.ニーズの確認

 有効に保険をかける上で、まず第一にニーズの確認をすることが必要となる。取引保険の性質上、基本的には対象となる限度額(債権額もしくは売上金額)を元に支払い保険料が計算される。今回の保険は、どのような目的で付保するのか?それを明確にしなで検討に入ると、対象先(対象金額)があれもこれもと、拡大し、結果、無駄な保険料を支払う羽目になる。

 ちなみに、何を目的として、取引信用保険を用いるのか?取引信用保険導入の効果は以下3つに大別することができる。

  1. 特定の企業の貸倒リスクをヘッジ
  2. リスクヘッジによる販売機会の確保。売上の拡大のサポート
  3. ファクタリング等他のリスクヘッジ手段からの切替え

 ここで紹介するE社は、前掲の会社概要にもあるように、取引先が1500社超(うち400社程度が毎年新規取引)と多数あり、その大半が1回の商売が2百万円程度といった小口先であった。
 今までは、債権買取(ファクタリング)や興信所の調書にて可否を判断し、取組んでいたが、取組み可否判断の難しさ、手間、高コスト、業種柄債権買取が不可能な先が多い、など様々な問題を認識していた。
 そこで、売上拡大サポート(上記2)と債権買取からの切替によるコスト削減(上記3)を目的として、取引信用保険を検討することとなった。

2.対象先・条件の選定

「無記名包括方式特約」とは?

取引額(売掛債権残高)が小額な取引について、保険会社の個別承認なく、一定の条件の下で自動的に保険カバーの対象とする保険契約の特約条項。

 同社からの相談により、当社からは『無記名包括方式特約』を用いた提案を行った。

 この「無記名包括方式」という形態は、ある一定の条件を満たせば、保険会社の個別承認(保険が掛かるかどうかの承認)をすることなく、原則として、全てが保険対象先となる商品である(注)

 同社は、この特約を利用し、取引の一番多い2百万円の層がカバーできるような条件を全取引先に掛け、逆に今まで興信所調書やファクタリングに掛けていたコストを0にする検討を行った。

(注)ケースによっては対象外になるものがございます。

3.見積取得

 結果、同社が保険会社に依頼した条件と、保険会社から出てきた結果は以下のとおりである(通常、見積取得までは申請から2〜3週間掛かる)。

(保険見積依頼内容)

  1. 対象先:E社の全取引先
    (全取引先に対し、
    一律2百万円カバー)
  2. 方式:売上高精算方式
    (推定売上:30億円)
  3. 縮小率:95%

(保険会社見積回答)

  1. 対象先:E社の全取引先
    (全取引先に対し、
    一律2百万円カバー)
  2. 予納保険料:9百万円
    (推定売上30億円に対して。
    料率:売上高の0.3%)
  3. 縮小率:95%

4.比較・検討

 この比較検討が非常に重要になる。単純に費用だけの比較に留まらず、保険を掛けることによる副次的効果にも十分に目を向ける必要がある。
 取引信用保険付保によるの副次的効果は主に以下の3つ。

  1. 取り組みについての決裁の迅速化
  2. 与信管理コストの削減
  3. 倒産発生時の労度の軽減

 E社においての比較・検討のポイントを整理すると以下のようになる。

  1. 逸失機会の防止:一定条件をクリアーすれば、自動的に取引信用保険の付保対象に
  2. 労度軽減・事務効率化:売上高精算のため、煩雑な精算事務の効率化
  3. コストメリット:現状と比較してコスト増にならない(本件のケースはコスト削減になる)。

保険利用時と前年度の単純コスト比較表 (百万円)

 

前年度コスト

保険利用

保険料

0

9

ファクタリング

20

0

興信所費用

4

2

2百万円以下の貸倒

2

0

機会損失

合計

26

11

5.契約

 同社は、上記比較検討を行い、1年間の取引信用保険を締結した。

6.検証

 取引信用保険は付保期間が1年間であり、次年度に契約を更新するのか、契約内容を変更するのか、契約を打ち切るのかを検証する必要がある。
 E社における1年間の付保結果は以下の通りである。

保険を行った1年間の収支等結果

売上高

30億円

39億円

保険料

9百万円

13百万円

貸倒件数(保険対象)

3件(5百万円相当)

 E社は上記結果を鑑み、翌年度は、更なる売上推進を目的として、一律のカバー金額を3百万円まで増加し、契約の更改を行った。

ポイントまとめ

  1. 取引信用保険の検討にあたっては、支払い保険料と貸倒額の比較だけを行うことはせず、トータルでのメリット・デメリットを把握する。
  2. 取引信用保険自体が歴史の浅い保険商品であるため、専門に取り扱っている代理店にニーズと予算を伝え、自社に合った商品設計をしてもらう。

関連リンク

Copyright © Mitsui Bussan Credit Consulting Co.,Ltd. All rights reserved.