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与信管理の知恵袋 Vol.30 取引信用保険や債権保証サービスを使えば与信管理は不要?

こんにちは。MCC与信管理ラボ編集部です。

与信管理をしっかりと行ったとしても、予期せず取引先企業が倒産し、売掛金や受取手形が焦げ付いてしまうことはありえます。

その貸倒れリスクに対して、取引信用保険や債権保証サービスを利用していると、貸倒れの一部もしくは全部を損害保険会社や債権保証サービス会社が補填してくれます。

しかし、仮に貸倒れリスクが補填されるとしても、取引信用保険や債権保証サービス適用先に対する与信管理を行うことをおすすめします。

今回は、その理由について解説します。

取引信用保険と債権保証サービスについて

前段として、取引信用保険と債権保証サービスの内容について簡単にご説明します。

取引信用保険と債権保証サービスは、事前に行うことのできる債権保全策のひとつです。

取引信用保険

取引信用保険は、損害保険会社が主に事業会社向けに提供している損害保険商品です。

売掛金や受取手形に対して、取引信用保険を掛けておくと、その売掛金や受取手形が未回収となった際にその損害の一部が保険金として支払われます。

保険をかけておく対象の取引先は、一定の基準に基づいて包括的に選定する必要があるものの、保険料率は低く、支払限度額は高く設定できる傾向にあります。

最近では、国内の損害保険会社に加えて外資系の損害保険会社も積極的に日本国内で営業活動を行っています。

債権保証サービス

債権保証サービスは、大きく銀行系のファクタリング会社が提供するサービスと、その他の保証会社が提供するサービスがあります。

銀行系のファクタリング会社は古くから債権保証サービスを提供しており、現在も広く利用されています。

取引信用保険とは異なり、保証をかける対象先企業を任意で選ぶことができ、一定基準による包括性を必要としません。対象としたい取引先企業を個別に複数選択することで、保証サービスを利用することができます。

その他の保証会社は、主に一般の事業会社が提供する債権保証サービスです。

近年、新たにサービスを提供する企業が増えてきており、中には1社の取引先からでも保証サービスを提供する企業もあります。

取引信用保険と債権保証サービスに依存し過ぎることに伴うリスク

前述のとおり、与信管理を行う上で非常に便利な取引信用保険、債権保証サービスではありますが、それらに依存し過ぎると、思いがけない事態を引き起こす恐れがあります。

リスク①:料率が急上昇する

一つ目は、保険料や保証料が跳ね上がってしまうリスクです。

取引信用保険や債権保証サービスは、契約時に保険料や保証料を算出するための基礎となる料率について定めています。

一般に、契約を更新する度に料率の見直しを行いますが、料率の見直しにあたっては、契約更新前の貸倒れ発生の実績や保険金、保証金の支払いの実績が影響を与えます。

つまり、過去に貸倒債権が発生し保険金、保証金の支払いが多くある場合は、更新時に提示される料率が高くなってしまうことがあります。

料率を決定する際には、上記以外にも、保険・保証対象先の倒産リスクや支払限度額や保証枠の大小等が影響します。

過去の貸倒れ発生の実績や保険金、保証金の支払いの実績が少ないからと言って、更新時の料率が必ず低下するというものではありませんが、まったく無視できる要因でないことも確かです。

料率が上昇すると、保険料や保証料も上がりやすくなります。

そうなると、想定していたコストで取引信用保険や債権保証サービスを利用できなくなる危険性があり、自社の経営状況に応じた債権保全策が継続できなくなってしまいます。

「そのような場合は、別の保険会社や債権保証サービス会社から見積りをとり、契約を結べば問題ない」と考える方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、そのようなことを繰り返すと、どの保険会社、債権保証サービス会社からも納得のいく料率で契約を結べなくなることがあり、注意が必要です。

リスク②:支払限度額、保証枠はいつも希望通りになるとは限らない

二つ目は、支払限度額や保証枠はいつも期待通りの金額が設定されるとは限らないということです。

倒産リスクが高いとみなして自社での与信取引を不可としている取引先であっても、取引信用保険や債権保証サービスによるリスクヘッジを条件に与信取引を継続しているケースはよくあります。

経済状況全般が悪化すると、頼りにしていた支払限度額や保証枠が設定できなくなることも考えられます。

経済状況全般の悪化は広く影響を及ぼしますので、多くの保険会社や債権保証サービス会社が支払限度額や保証枠を絞る状況が懸念されます。

そうなると、リスクヘッジを前提としていた与信取引は前提が崩れるため、取引ができなくなってしまいます。

リスク③:自社の与信管理能力が低下する

まったく与信管理を行わなくなると、自社内で受け継がれてきた取引先企業を観察する能力や悪化の予兆を見抜く分析能力が、営業担当者や審査担当者から徐々に失われていくことになります。

情報収集は、信用調書の購入や決算書の取付けだけに限りません。

営業担当者が、取引先の本社や工場、倉庫等に足を運び現場で得られた情報は他では得難い貴重な信用情報です。

訪問した営業担当者がいつもと何か違うといった感覚は定期的に訪問を行い、観察を行っているからこそ得られるものです。

財務分析についても、財務状態が大幅に悪化してから分析を行っても手遅れになってしまいます。

取引信用保険や債権保証サービスでリスクヘッジしている場合も、定期的に情報を収集・分析して悪化の兆候を確認し、対応の準備をしておくことが重要です。

取引信用保険や債権保証サービス利用先に与信管理を行うことのメリット

すでに取引信用保険や債権保証サービスでリスクヘッジができている取引先企業に対して、与信管理を行うとどのようなメリットがあるのかお話しします。

メリット①:貸倒れ損失を抑制して料率を維持しやすい

取引信用保険や債権保証サービスを活用している取引先企業に対しても与信管理を行った場合、取引先企業の倒産リスクが高まったときに、リスクヘッジが無い場合と同様の対応をすることになります。

つまり、取引先企業の倒産リスクが高くなったとみられたら、売掛金や受取手形の未回収リスクが減るように対応を行うということです。

具体的には、決済条件の短縮、商流ルートの変更、販売数量の圧縮、反対債務の可能性の検討、担保の取付け等になります。

リスクヘッジができているにも関わらずこのようなことを行うのは、実際に貸倒債権が発生したときに、その金額を可能な限り少額にするためです。

リスクヘッジができているならば、支払限度額や保証枠の範囲内いっぱいで取引を行いたいところが、貸倒や保険金、保証金の支払いの実績が更新時の料率に影響を与えます。

一時的に多額の保険金、保証金を得られたとしても、更新の際に想定コストを超える条件を提示されたとすると、取引信用保険や債権保証サービスを利用できなくなり、中長期的な視点ではあまり良い対応とは言えません。

また、結果として貸倒債権発生にともなった保険金、保証金の支払いが発生してしまったとしても、保険会社や債権保証サービス会社側に対して自社がむやみにリスクを増やしている企業でないと認識されることによって、契約条件の交渉において良い効果をもたらすと考えられます。

メリット②:保険会社、保証会社の動向に影響されにくくなる

支払限度額や保証枠が常に希望通りに設定されるとは限りません。

そのため、保険会社や債権保証サービス会社の支払限度額や保証枠に頼った与信管理を行うと、急に取引を中止せざるを得ない状況がおこります。

自社でしっかりと与信管理を行い、取引先企業の動向や倒産の危険度について把握できていれば、希望通りに支払限度額や保証枠が設定されなかったとしても、冷静にその後の対応を行うことができます。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

今回は、自社の与信管理を過度に取引信用保険や債権保証サービスに依存した場合のリスクや懸念点について説明を行いました。

リスクヘッジができている取引先企業に対して与信管理を簡略化するということは、濃淡管理の手法としては大変重要なことです。

しかし、取引信用保険や債権保証サービスに過度に依存することは、さまざまなリスクを伴います。濃淡付けを行いつつも与信管理の取り組みを継続し、自社の与信管理能力の低下や取引の急な縮小、停止などの事態に陥らないようにしましょう。

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