VIEW MORE
民法(債権法)改正 < 連載第11回 >「消滅時効および法定利率に関する改正民法の内容~消滅時効について~」
このコラムでは、今回の民法改正の対象となったもののうち、特に与信管理に関連すると思われる点をいくつか取り上げております。連載第11~12回では、「消滅時効」と「法定利率」について、法改正の背景やポイント、実務上の留意点等を解説します。
まず、「消滅時効」についてです。
1.消滅時効制度について
消滅時効制度とは、一定期間、権利行使等がされなかったという一定の事実状態を重視して、権利を消滅させる制度をいいます。
もっとも、一定期間の経過により当然に権利が消滅するわけではなく、権利の消滅を主張したい側(債務者、保証人、物上保証人、第三取得者等権利の消滅について正当な利益を有する者)が、時効の援用をすること(時効が完成したことを主張すること)で初めて権利消滅という時効の効果が確定的に生じます。
2.消滅時効期間
(1)改正の背景
改正前民法では、原則的な消滅時効期間は、権利を行使することができる時から10年とされていました。また、職業別短期消滅時効の特則(1~3年)が定められ、さらに、商行為によって生じた債権については5年と規定されていました。
このように時効期間がまちまちなため、「債権管理を煩雑にし、また、合理性を欠く」との指摘があったこと等から、以下のような改正が行われました。
(2)改正民法の概要
消滅時効期間に関して、改正の主なポイントは以下ポイント1~5のとおりです。
ポイント1:
職業別短期消滅時効(1~3年)が廃止されました。
ポイント2:
商行為債権の消滅時効(5年)を廃止し、民商法の消滅時効期間が統一されました。
ポイント3:
権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年、または権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年(改正民法で追加)として、いずれか早い方の期間満了により債権が時効消滅します。
これは、10年間で統一すると、改正前民法の職業別短期消滅時効期間が大幅に長期化してしまうことに配慮したものです。
ポイント4:
不法行為に基づく損害賠償請求権(後記ポイント5の人の生命・身体の侵害を除く)の消滅時効は、損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年で請求権が時効消滅します。
ポイント5:
人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権(債務不履行・不法行為いずれも)については、被害者保護の観点から、以下の特則が設けられています。
< 特則 >
・不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から5年、または、権利を行使することができる時から20年として、いずれか早い方の経過で請求権が時効消滅します。
・債務不履行に基づく損害賠償請求権は、権利を行使することができることを知った時から5年、または、権利を行使することができる時から20年として、いずれか早い方の経過で請求権が時効消滅します。
3.時効障害事由(時効の完成を阻止する事由)
(1)改正前民法で使われていた「時効の中断」と「時効の停止」概念
時効の中断とは、法定の中断事由があったときにそれまでに経過した時効期間がリセットされ、その事由が終了した時から新たな時効期間が進行することをいいます。
一方、時効の停止とは、時効が完成する際に、権利者が時効の中断をすることに障害がある場合に、その障害が消滅した後一定期間が経過するまでの間、時効の完成を猶予することをいいます(たとえば、債権者又は債務者が死亡し、相続人に相続された権利義務は、相続人が確定した時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予されます。)。
(2)改正の背景
改正前民法では、上記のとおり時効の中断と時効の停止という二つの用語がありました。
改正前民法では、「実質的な内容に沿った適切な表現を用いた方が分かりやすい」という観点から、①更新(それまでに進行していた時効が全て効力を失い、新たな時効が進行を始める)、②完成猶予(一定期間時効の完成が猶予される)という用語に改められました。
改正前民法の中断事由は、更新事由と完成猶予事由に振り分けられ、停止事由は、完成猶予事由にそれぞれ整理し直されました。
(3)改正民法の概要
時効障害事由に関して、改正の主なポイントは以下ポイント1~6のとおりです。
ポイント1:
改正前民法では中断事由とされていた承認(借入金の一部を弁済する等債務を負っていることを認めること等)は、更新事由となります(承認によりそれまでに進行していた時効が全て効力を失い、新たな時効が進行します。)。
ポイント2:
訴訟や調停等の裁判上の請求等は、手続継続中は完成猶予、権利が確定することなく終了した場合は終了時から6か月は完成猶予、確定判決などで権利が確定したときは更新となります(新たな時効期間は10年間)。
ポイント3:
仮差押えまたは仮処分はその各事由があれば、その事由が終了した時から6ヶ月経過するまでの間は完成猶予となります(改正前民法では、時効の中断事由とされていましたが改正により変更されています)。
ポイント4:
催告(裁判外で請求すること等)は、催告時から6か月間は完成猶予となり、この6か月以内に裁判上の請求をすれば上記ポイント2記載のとおりとなります。ただし、時効完成猶予中の再度の催告には、上記効力は認められません。
ポイント5:
天災その他避けることのできない事変等による時効の完成猶予の期間(障害が消滅した後の猶予期間)については、改正前民法時の2週間から3か月へ伸長されました。
ポイント6:
当事者間で権利についての協議を行う旨の合意が書面又は電磁的記録によってされた場合には、以下a~cのいずれか早い時期まで、時効の完成が猶予されるとする新たな制度が導入されました。
また、本来の時効完成時から5年を限度に再度の合意も可能とされています。
なお、上記合意は、電子メールのやり取りによって行われた場合も含むとされております。
< 時効完成が猶予される期間 >
a. 合意から1年間
b. 合意により定めた期間(1年を超える期間を定めることはできない)
c. 一方当事者が他方に協議続行拒絶の書面又は電磁的記録による通知をしてから6ヶ月の経過
4.民法改正に伴う経過措置
(1)消滅時効の期間
消滅時効の期間については、債権発生日(または、その発生原因となる法律行為が行われた日。たとえば、契約締結日)が改正民法施行日(2020年4月1日)よりも前の場合は、改正前民法の規定が適用されます。一方、上記施行日よりも後の場合には、改正民法の規定がそれぞれ適用されます。
(2)時効の障害事由
時効の障害事由については、障害事由が生じた日が改正民法施行日よりも前の場合は、改正前民法の中断/停止の規定が適用されます。一方、上記施行日よりも後の場合には、改正民法の更新/猶予の規定が適用されます。
たとえば、施行日前に発生した債権でも、施行日後に書面による協議の合意(※)をした場合には改正民法が適用され、時効の完成が猶予されることになります。
※「3.時効障害事由(時効の完成を阻止する事由)」の「(3)改正民法の概要」のポイント6参照
5.実務上の時効管理のポイント
多くの債権は、主観的起算点から5年、客観的起算点から10年で時効消滅するとされ、それぞれの起算点に合わせて時効管理をする必要があります。
しかし、契約上の債権については、多くは履行期の定めがあり、その履行期が到来すれば債権者はその到来を知っているはずです。
したがって、債権者は権利を行使することができることを知っていると言え、履行期から5年の経過で消滅時効が完成することに留意する必要があります。
契約上、期限の利益について、当然喪失条項(契約で定めた事由が生じた場合に当然に期限の利益を喪失するという条項)を規定している場合、期限の利益喪失時点が客観的起算点になるため、当然に期限の利益が喪失後、消滅時効が進行していることに気付かずに10年経過により時効消滅する可能性があります。したがって、当然喪失条項の有無、その該当性等も含めた債権管理に留意する必要があります。
また、債権の発生時期(その発生原因となる契約締結等の法律行為を含む)が、改正民法施行日の前か後かにより債権を区別し、時効期間を区別して管理する必要があります(※)。
※「4.民法改正に伴う経過措置」の「(1)消滅時効の期間」参照。
コラム筆者プロフィール
東京霞ヶ関法律事務所 弁護士 清塚 道人氏
中央大学法科大学院修了、2012年弁護士登録(65期・松山修習)東京霞ヶ関法律事務所入所。
主な取扱分野は、企業法務、債権保全・回収、倒産処理、労働事件、商事・民事事件、刑事弁護事件等。