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民法(債権法)改正 < 連載第10回 >「定型約款に関する改正民法の概要~変更要件等について~」
改正民法において改正の対象とされたもののうち、与信管理に関連するトピックについて解説する本コラム。
前回に続き、新たに設けられた「定型約款」に関する規定(改正民法548条の2~4)について、改正の概要、背景、実務上の留意点をお話しします。
定型約款に関する規定
2.定型約款の変更要件等について
(1)改正の概要
改正民法では、定型約款を準備した者(事業者等)が、①相手方(利用者等)の一般の利益に適合する内容に定型約款を変更する場合、または、②契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款を変更できる旨の条項の有無やその内容、その他の変更に係る事情に照らして合理的な内容に定型約款を変更する場合には、相手方(利用者等)と個別に合意をすることなく、定型約款の変更をすることで、変更後の条項について相手方と合意があったものとみなして、契約の内容を変更することができるとされています。
上記①は、相手方(利用者等)全員に有利な内容に変更する(料金を減額する、同じ料金のまま利便性を向上させる等)ものですので、変更を認めても特段問題はないと考えられるのに対し、上記②は、相手方(利用者等)に不利益が生じる内容に変更するものですので、契約の目的に反しないことや合理的なものであることが必要とされています。
また、定型約款を準備した者(事業者等)は、定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定めた上で、定型約款を変更する旨、変更後の定型約款の内容、効力発生時期をインターネット等の適切な方法により周知し、相手方(利用者等)に与える影響が大きい上記②の場合には、効力発生時期までに上記周知をしなければ変更の効力は生じないとされています(以上について改正民法548条の4)。
(2)改正の背景
長期にわたり継続する取引では、法令の変更や事業環境の変化等に対応するために定型約款の内容を事後的に変更する必要が生じることがあります。
他方で、民法の原則では契約の内容を事後的に変更するためには相手方から個別に承諾を得ることが必要とされていますが、定型約款が利用される取引は相手方が多数であることが多く、全員から個別に承諾を得ることは事実上困難です。
そのため、従前、多くの約款では、約款を事後的に変更できる旨の条項を設けておいて、同条項に基づき約款を変更することが行われていましたが、このような条項の有効性は明確ではなく、また、事後的に約款が不適切な内容に変更されることから相手方を保護する必要も生じていました。
そこで、改正民法では、定型約款を相手方から個別の承諾を得ることなく変更するための要件や手続等について規定が設けられました。
(3)実務上の留意点
上記(1)②による定型約款の変更において、定型約款を変更できる旨の条項の有無等は、変更が合理的なものであるかを判断する要素の1つと位置付けられましたので、当該条項が定められていない場合でも、変更が認められる可能性がありますが、条項が定められている方が変更が認められやすいことは明らかですので、定型約款には上記条項を設けておくことが相当と思われます。
この点、上記条項については、単に変更があり得る旨を抽象的に定めるだけでは不十分で、変更の要件や手続等を定めることが相当とされているので、留意が必要です。
また、上記変更において、同じく変更が合理的なものであるかを判断する要素の1つとされている「その他の変更に係る事情」については、相手方に与える不利益の内容や程度、不利益の軽減措置の内容等と解されています。
不利益の軽減措置としては、相手方の損失を補填することや相手方に解除権を与えること等が考えられ、例えば、定型約款の変更を個別にメールする等の方法で明確に予告してからその効力が発生するまでに相当な期間を設け、その間に相手方には契約を解除する機会が付与されていたと認められるような期間設定としていたような場合には、定型約款の変更がより認められやすくなると考えられます。
(4)定型約款に関する規定の適用範囲について
改正民法は、基本的に2020年4月1日の施行日後に締結された契約に適用され、施行日前に締結された契約には引き続き旧民法が適用されるとされています。
しかしながら、定型約款に関する規定(改正民法548条の2~4)については、施行日前に契約が締結されていた場合でも、当該契約について解除権を行使することができなかった当事者から施行日前に書面または電磁的記録で改正民法の適用に反対する意思表示がなされた場合を除いて、改正民法が適用されるとされていますので(改正民法附則33条)、留意が必要です。
また、上記規定は、定義が設けられた「定型約款」をその適用対象としていますので、「定型約款」に該当しない約款には、原則として適用されませんが、上記規定は、相手方と個別交渉することなく画一的に利用することが予定されている等の約款の特質に鑑みて定められたものですので、「定型約款」に該当しない約款にも、約款としての特質の共通性から上記規定が類推適用等される可能性があると考えられ、注意が必要と思われます。
コラム筆者プロフィール
東京霞ヶ関法律事務所 弁護士 上田 豊陽氏
東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録(修習55期)東京霞ヶ関法律事務所入所。
主な取扱分野は、企業法務、債権保全・回収、倒産処理、労働事件、商事・民事事件等。
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