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民法(債権法)改正 < 連載第1回 >「保証に関する改正民法の内容~個人根保証契約に関する保護の拡大~」

民法改正(保証)

2017年5月26日、民法の債権編を中心とする改正法(以下「改正民法」といいます)が成立し、本年4月1日に施行されました。明治29年に民法が成立して以来、実に120年ぶりの大改正となります。

このコラムでは、今回の民法改正の対象となったもののうち、特に与信管理に関連すると思われる点をいくつか取り上げて、解説したいと思います。

まずは4回に渡って、皆さんにも馴染みが深いと思われる「保証」を取り上げます。

保証に関する改正民法の内容

1.個人根保証契約に関する保護の拡大(極度額の定め他)

(1)改正の概要

一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約を「根保証契約」といい、そのうち保証人が個人である根保証契約を「個人根保証契約」といいます。

個人根保証契約の保証人は、主たる債務の元本、利息、違約金、損害賠償等について、その全部にかかる極度額を限度として、履行する責任を負います(改正民法465条の2第1項)。

個人根保証契約は、極度額を定めない限り、無効となる(同条第2項)という点が特に重要な改正点です(包括個人根保証契約の禁止)。なお、この極度額の定めは、書面(または電磁的記録[デジタルデータ])で行わなければ効力を生じません(同条第3項)。

また、極度額は、主たる債務の元本のみならず、利息・損害金等を含め保証人が負うことになる債務全てを対象として定める必要があり、例えば「元本100万円」のように、主たる債務の元本のみにつき限定的に極度額を定めることは許されないと解されている点に注意が必要です。

(2)改正の背景

従前より、銀行からの借入契約、企業間の継続的売買契約、賃貸借契約、身元保証契約等の主債務に関して、広く個人根保証契約が用いられてきました。しかし、根保証の場合、主たる債務の額が想定外に大きくなり、保証人が過酷な状況に陥るという事態も稀ではなく、そのため保証人保護の必要性が指摘されるようになりました。

そこで、平成16年の民法改正では、まず、主たる債務に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務。銀行からの借入契約等がその代表例です)が含まれている個人根保証契約(個人貸金等根保証契約)について、保証人の責任の上限金額を画するものとして、極度額を定めない限り、契約が無効となる旨が定められました。

今回の改正民法では、個人貸金等根保証契約に限らず、例えば、企業間の継続的売買契約や賃貸借契約なども含め、保証人が個人である根保証契約一般について、極度額の定めを要求することとし、個人根保証人の保護の範囲が拡大されました。

(3)実務上の留意点

実務上の主な留意点は、以下ア~ウの3点です。

ア 改正民法施行日(2020年4月1日)以後に締結された個人根保証契約には、改正民法が適用されるため、個人根保証契約を保証人と締結する場合は、必ず、極度額を定める必要があります。

イ なお、施行日以前に締結された保証契約には旧民法が適用されますが(経過措置に関する附則第21条第1項)、当該保証契約について、施行日以後に債権者と保証人との間で合意更新、或いは当該保証契約に基づき自動更新された場合、更新後の契約には改正民法が適用されると解されております。
よって、例えば、極度額の定めのない個人根保証契約の締結が改正民法施行日以前になされたとしても、自動更新条項による根保証契約の更新日が改正民法施行日以後であれば、更新後は、当該根保証契約について改正民法が適用されると考えられ、その場合、極度額の記載がない根保証契約は無効となってしまいます。
そこで、このような場合、根保証契約更新の際に、極度額の記載のある根保証契約を改めて取り付ける必要がありますのでご留意下さい。

ウ また、極度額は、保証人が負う責任の上限を画するものですので、それぞれの取引形態に即して、具体的な金額により定める必要があると思われます。例えば、企業間の継続的売買契約では与信限度枠を踏まえて、賃貸借契約では賃料不払いが予測される期間の賃料債務、損害賠償債務、原状回復費用等の合計額を想定して、身元保証契約では給料の数か月分をベースとするなどして、それぞれ極度額を定めること等が考えられます。

(4)主債務の元本確定事由について

この他、改正民法では、個人根保証契約に関し、主債務の元本確定事由について、以下のように整理されました。元本確定事由が生じた以降に発生した主債務は、根保証の対象とはなりませんのでご注意下さい。

①保証人への強制執行、担保権実行
②保証人の破産
③主債務者又は保証人の死亡
④主債務者への強制執行、担保権実行
⑤主債務者の破産
(*但し、④⑤は、個人貸金等根保証契約の場合のみの元本確定事由)

コラム筆者プロフィール

東京霞ヶ関法律事務所 弁護士 青木 智子 氏

早稲田大学法学部卒業、1997年弁護士登録(修習49期)。
清塚・遠藤法律事務所(現東京霞ヶ関法律事務所)入所。
主な取扱分野は、企業法務全般、債権保全・回収、倒産処理、労働事件、商事・民事事件等。
第二東京弁護士会「子どもの権利に関する委員会」に所属し、いじめ、体罰、虐待など現代の子どもの人権に関する事件対応に関与。

次回「保証に関する改正民法の内容~第三者保証の保証意思確認の厳格化~」につづく

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個人根保証契約に関する保護の拡大 ※本記事
第三者保証の保証意思確認の厳格化
保証人に対する情報提供義務①
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< 債権譲渡 >
譲渡禁止特約の効力の変更
将来債権譲渡の明文化 他

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